■1. ハイテク企業、ローテク企業。
■2. コマンドZな電卓。
■3. キャラポンな製品。
■4. 他人の感覚で判断できる人、自分の感覚で判断する人。
■5. 自分の感覚でしか判断できない人。
■6. 経営者に求められる感性。
■7. 経営者と企画開発部。
■8. クレーマー、カスタマー。
■9. もっとも強いものづくり。
■10. 既存技術の融合。
■11. 要望のないアンケート。

■ラフィールドの考える「これからの企業と製品」をコラムシリーズとしてお伝えしていきます。
なお、ご意見やご質問がございましたら、お気軽にinfo@lafield.comへお問い合わせください。


■8. クレーマー、カスタマー。

製造メーカーにとって、クレームほど頭の痛いものはない。一歩間違えば製品の回収は疎(おろ)か、企業の存続すら危うくなってしまうからだ。自動車、携帯電話、牛乳、ロールキャベツなど、クレームが発展して失墜(しっつい)した企業は数多い。「ものづくり」をする製造メーカーにとって避けられない「クレーム」に焦点をあててみる。

そもそも、製品が出荷される以前にすべての不具合が発見されていてば、クレームなど発生しないのが道理である。だから製造メーカーは、その設計段階からあらゆる可能性を想定して、不具合の発生を抑えるべく最大限の注意を払う。さらに、過酷な耐久試験や破壊試験を重ね、安全の確保に全力を傾ける。もちろん、メーカー自身がその管理を怠(おこた)った結果のクレームなど論外だ。だが、そこまでしてもクレームがなくなることは、まずありえない。なぜだろう。

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終戦後。世の物資は不足し、ものをつくればなんでも売れた。たとえそれが、どんなに粗悪品であっても、ないよりは増しだったからだ。例えば、「たらい」。ブリキ板でつくられたそれは錆びた。水を入れるための製品にもかかわらずにだ。錆びが発生すると、やがてその部分は脆(もろ)くなり穴があいた。だが、穴を鋲(びょう)で補修して使い続けた。

さて、この時代。「たらいが、錆びた。」と言ってクレームを出したら、製造メーカーは何と回答しただろうか。おそらく、「では、買っていただかなくて構いません。錆びても欲しいお客さまは、幾らでもいらっしゃいますから。」なんて感じだろうか。つまり、「たらい」とて貴重品である時に、錆びることは製品の価値観から除外されてしまったのだ。

一方、現在。この「たらい」は、「洗濯機」が取って代わった。この「洗濯機」、錆びるどころか、カビすらも排除してしまう。洗濯から乾燥まで手が触れることすらない。まさに「たらい」とは、隔世の極みと言える。だがこの「洗濯機」、もう十分過ぎるほどの機能があるにもかかわらず、クレームや要望が発生する。なぜか。「たらい」より価値観が低くなってしまったからだ。

もし「錆びるたらい」を使用していた時代に、「錆びないたらい」を発売したらどうなっていただろうか。考えるまでもなく、「たらい」市場を独占していただろう。(事実、その後発売されたプラスチック製の「たらい」が、それに取って代わった。)では、この時代に「洗濯機」を発売したらどうなっていたか。もちろん、空前の大ヒットである。では、クレームや要望は発生しただろうか。答えは、NOだ。

今までなかった製品は、それ自体の存在が高い価値観だから、多少の難があっても売れてしまう。だが、その製品が認知され、やがて市場に溢(あふ)れると、その価値観は一気に低下する。価値観が低くなると、それまで気にもしなかった些細(ささい)な難が目に付くようになる。やがて、それはクレームとして表れる。だから、成熟した製品ほどユーザーは些細なことを不満と思う。クレームの内容は、より高度になり細分化されて行くのだ。

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ここで、ある企業の例をご紹介する。このコラムの初回に登場したメーカーである。このメーカー、それまで受けたことすらなかった最終ユーザーのクレームを積極的に収集して製品に反映したことはすでにご紹介した。実は、まだ続きがある。

このメーカーがクレームを収集し始めると、ある奇妙な現象に気が付いた。同じユーザーから何度もクレームが発生していたのだ。聞き取り調査したところ、自社の製品を何度も購入していた。つまり、多数の製品を購入したために、何度もクレームを寄せてきたのだった。上得意である。そこで、クレームを寄せたユーザーすべてにアンケート調査を実施して、自社製品の使用状況や購入経歴など事細かに調べ上げた。すると、とんでもない事実が判明した。大部分が、自社製品を多数所有する上得意だったのだ。

「このままでは、上得意を失ってしまう。」このメーカーは、奇策を打った。クレームを寄せたユーザーに自社の製品モニターになってもらい、クレーム品の改良評価から新製品評価までも依頼したのだ。すると、批判的だったこれらユーザーから、非常に好意的な意見や感想が寄せられるようになった。しかも、もともと使用経歴が永いこれらユーザーからの回答は、一般のユーザーより遙かに具体的で、細部に渡って事細かに記載されていたのだ。

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クレームを寄せるユーザーは、1/1500とも1/2000とも言われている。つまり、1件のクレームがあったら、1,500〜2,000件もの同様な不具合が発生している計算になる。クレームは、ユーザーの代表意見とも言える訳だ。これらユーザーにしてみれば、自分が寄せたクレームに熱心に聞き入り、一緒になって対策を講じてくれるメーカーの姿勢は、掛け替えのない満足だったのかも知れない。まさに、クレーマー(苦情客)が、最大のカスタマー(得意客)になり得たのだ。



※後日談---私自身、常用している製品に不具合が発生した時は、できるだけメーカーにカイゼンを申し入れている。クレームを寄せるユーザーが、とても貴重なのを知っているからだ。だが、往々にしてメーカーの態度は冷たい。なんて、もったいない。


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